離婚やそれに関する法律などについて調べたことがある方は、「悪意の遺棄」という言葉を目にしたことがあるのではないでしょうか。

 

単語だけを見ると「悪意」「遺棄」など、なんだか不穏な雰囲気のある言葉ですが、これはれっきとした法律上の用語です。

 

そもそも「悪意の遺棄」とは何なのか。

 

どのような行為が「悪意の遺棄」にあたるのか。

 

順序立てて見ていきましょう。

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民法上の「離婚事由」は大きく分けて4つ

 

まず、民法上の裁判離婚についての記述を見てみましょう。

 

民法第770条1項

夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

一  配偶者に不貞な行為があったとき。

二  配偶者から悪意で遺棄されたとき。

三  配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

四  配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

五  その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

 

このうち「二」にあたるのが「悪意の遺棄」です。

 

相手がこの「悪意の遺棄」に該当する行為をした場合、「不貞行為」などと同様、民法上相手に離婚を請求できるということになります。

 

悪意の遺棄とは

 

では、悪意の遺棄とは一体どういう行為のことを指すのでしょうか。

 

まず、法律的な「悪意」という言葉は一般的に使われている「悪い気持ち」というような意味ではなく、

「ある事実を知っていること」という意味です。

 

また、「遺棄」とは「捨てて置き去りにすること」です。

 

これらを念頭に入れて、民法上の「夫婦の同居、協力及び扶助の義務」の記載を読んでみましょう。

 

民法第752条

夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

 

このように、夫婦はどちらも「同居」「協力」「扶助」の義務がありますから、

特別な事情がある場合を除き、夫婦は一緒に住み、力を合わせ、お互い助け合って生活していかなくてはなりません。

 

この義務を果たさないと夫婦関係が悪化するということがわかっている(「悪意」)のに、義務を果たさない(「遺棄」)状態のことを「悪意の遺棄」と呼ぶのです。

 

 

悪意の遺棄の具体例

 

…とは言っても、具体的にどのような状態が悪意の遺棄なのか、わかりにくいですよね。

 

悪意の遺棄にあたる具体的な例を以下に挙げてみます。

 

例1

⇒ 片方は一緒に住みたいと思っているのに、パートナーが特に正当な理由なく同居を拒む

 

「仕事上単身赴任の必要がある」などの特別な事情がないのに「一緒に住みたくない」と言って同居を拒否することは、「同居」の義務を果たしていない状態と考えられ、悪意の遺棄であると認定される可能性があります。

 

例2

⇒ 自分が稼いだ生活費を配偶者に渡さない

 

たとえば一方が専業主婦(主婦)だった場合、もう一方から生活費をもらえなくなるとたちまち生活できなくなってしまいますよね。

 

夫婦には相互扶助の義務がありますから、必要な生活費はきちんと分け合う必要があります。

 

その義務を果たさない状態は悪意の遺棄である、と言えるでしょう。

 

例3

 専業主婦(主夫)として家事をする、という約束だったのに家事を一切しない

 

生活費などのお金の面だけではなく、生活全般で夫婦は協力していく必要があります。

 

「一方が生活費を稼ぎ、もう一方が家事や育児を行ってお互いの生活を保っていく」という約束をしたにもかかわらず家事を行わないということは「協力義務」を果たしていないと考えられますよね。

 

例4

⇒ 暴力や暴言、いやがらせなどで相手を家から追い出す

 

例1のように「同居を拒む」だけでなく、「共同生活ができないような状態にする」ことも悪意の遺棄と言えます。

 

悪意の遺棄にあたらない例

 

では、今度は「悪意の遺棄にはならない」という例を見てみましょう。

 

例1

⇒ 無職ではあるが、仕事をしようという意思はあり、就職活動も行っている

 

「就業には問題のない健康状態のはずなのに、仕事をしようとしない」という状態は悪意の遺棄にあたりますが、仕事をしようという意思があり、具体的に行動に移している(=就職活動をしている)のであれば、その状態は悪意の遺棄にはあたりません。

 

 

例2

⇒ 就業・家事ができない正当な理由(病気など)がある

 

病気など正当な理由があって仕事や家事ができないのであれば、それは悪意の遺棄ではないと言えるでしょう。

 

例3

⇒ 出産や育児、仕事上の単身赴任など、正当な理由があって別居している

 

正当な理由がなく、また片方が納得していない状態での別居であれば悪意の遺棄になる可能性はありますが、正当な理由があり、かつ双方同意した上での別居であれば、悪意の遺棄には該当しません。

 

例4

⇒ 相手の暴力・暴言などに耐えられなくなった末の別居

 

「悪意の遺棄の具体例 例4」のように、「相手の暴力から逃れるために別居した」という場合は、暴力をふるった側の悪意の遺棄に該当することはあっても、耐えられずに家を出た側の悪意の遺棄には該当しません。

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悪意の遺棄かも?と思ったら

 

ここまでお読みいただいて、「あれ、もしかして自分のこの状態は『悪意の遺棄』にあたるのでは…?」と思った方もいるかもしれませんね。

 

悪意の遺棄には「どう考えても明らかに『悪意の遺棄』である」とわかるケースもあれば、判断に時間がかかるケースもあります。

 

法律的な判断が必要になってくるので、「もしかして」と思ったらぜひ一度法律の専門家に確認してみましょう。

 

また、悪意の遺棄が成立するかどうかや離婚についての判断は最終的には裁判所が下すことになりますが、その場合に必要なのは「証拠」です。

 

  • 暴力などがあったのなら痣の写真や診断書
  • 別居開始の時期がわかるようなメールやLINEの文面のスクリーンショット
  • 家事がされていない状態がわかる写真

 

など、できる範囲で証拠を集めてから相談へ行くと、

今自分が置かれている状況が悪意の遺棄にあたるのかどうかなど、

専門家が判断する良い材料になりますよ。

 

もちろん、証拠がなくても相談は可能ですから、「『あれ?』と思ったらまず専門家へ聞いてみる」ということを念頭に置き、自分の置かれている状況を冷静になって考えてみてくださいね。

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